Seria Net
No.17


知・勇・愛 未来を築くキーワード

現状では、日本陸上界には憧れの対象となるスター選手は生まれない。
記録や勝負けよりも、もっと大切なものの為に君は走るべきだ。

スポーツと生涯つきあっていける考え方を育てて欲しい

相次いで実業団女子陸上長距離チームが廃部となった。不景気の煽りを受けた企業スポーツの末路の感がある。旧態依然たる陸上界を考え直す時期は、今をおいてないかもしれない。スポーツが広告塔として扱われている限り、それはそれ以上の役割を持てずにいる。成熟した文化はこの様な土壌には育つ訳もない。リミットはいつも決められている。求められているのは破格の結果なのだ。

選手も監督もその軋轢に怯えた日々を送っている。そこには未来に繋がる光明を見る事はない。結果が悪ければ葬られるのだ。それは学生スポーツにまで及んでいる。箱根に代表される駅伝は過熱の一途をたどり、教育は彼方へと置かれていった。コマーシャリズムに流され論拠の無い目標を追い求めた結果、弾けていったバブルを教訓としないのは、哀れな人間の性なのだろうか。

学校スポーツにおいても成績重視の傾向は強まっている。在学期に花を咲かせようと地域ぐるみで躍起になっている。活躍した選手は有力校の争奪戦となり、青田買いに拍車がかかる。一部の選手のレールを敷く為に競技があるわけではない。スポーツが教育の一環にあるならば、目先の目標ではなく、スポーツと生涯つきあっていける考え方を育てて欲しい。結果はあくまで後からついてくるものだ。

少数派ではあるが、問題意識を持ち、指導の改善を図っているチームもある。栄養に気を配り、走らされるのではなく自ら走れる選手を育てようとしている。また、卒業後も競技を続けていける心の基盤を作ろうと努力している先生もいる。大学においても個別の指導に重点を置き、選手の自己管理を促している。自立した選手は確実に実力を伸ばしている。選手の豊かな人間性を育み、社会に福音をもたらすのがスポーツ文化だ。今、求められるのは選手よりも指導者のレベルアップかもしれない。

新たな取り組みに期待
山梨学院・神奈川大

新春を飾る箱根駅伝。伝統校に混じって新鋭校の躍進も目立っている。組織づくりやチーム強化への取り組み方も大学のクラブの概念を超えたところまで来ている。ここ数年、レースの高速化が進み、競争が激化する中で練習の量も質も飛躍的に高まった。同時に選手は限界まで身体を酷使し、怪我や故障と背中合わせの危険な状態に追い込まれている。トレーニングを続けながら、如何に故障や病気から身体を守り、健康を維持するか。

今春、神奈川大学、山梨学院大学では、合宿所を立ち上げた。食環境の整備が以前から懸念されていた両チームが偶然にも同じタイミングで改善に踏み切った。運動量や練習メニューを考慮し、専門家が献立を作成、調理する。更に選手は毎日の食事や体調を自らデータベースに入力し、自己管理の意識を高めている。その成果はもちろん、箱根が最終目標にならない様、この試みの成功を願っている。
(山)

勇気ある一歩 -混成チームのオープン参加が認められた・・-
・・埼玉県高体連陸上競技部の決断

2000年11月、全国高等学校駅伝競走大会が各都道府県で行なわれた。埼玉県予選会では、混成チームの出場をオープン参加として認める試みが実施された。地区大会では既に行なわれていたところもあったが、全国大会の予選会では初めてである。男子12校で4チーム、女子17校で4チームが結成された。

実施にあたっては賛否両論があったが、大会の主旨との違い、数々の責任問題など、十分な検討を重ねた上、実施に到った。順位は参考記録として扱われるが、区間賞は認められる為、選手にとっては大きなチャンスとなる。確かに、他県においては女子参加校が十数校というところも少なく無い。この状況が続けば、県予選会は疎か、地区大会、全国大会の意味が問われる。単に日本一の高校を決めるだけの大会になって欲しく無い。長い目で競技者を育てる教育的指針を持つならば、状況に応じて最善の方法をとっていける柔軟性が必要だ。
(伊)

「駅伝を愛する会」にみる熱意 -中学男子駅伝関東勢の活躍の背景-
・・・指導とは心を育てること・・・

2000年12月、山口県で行われた第8回全国中学校駅伝において、男子優勝中之条中(群馬)、準優勝小見川中(千葉)、7位白根巨摩中(山梨)、8位富士見台中(埼玉)、15位芳賀中(栃木)と関東勢が大活躍をした。入賞した4校は、2月に小見川中で行なわれた「駅伝を愛する会」合同練習会に参加している。短距離も含め参加数は延べ440人。タイトルからも先生方の熱意が伝わってくるが、スケジュールも実にユニークである。

練習の合間に必ず、参加校の先生方の訓話が組み込まれている。夜のミーティングには「陸上が強くなるための秘策」をテーマに、中込先生(白根巨摩中)、里美先生(中之条中)、二反田先生(富士見台中)、有田先生(小見川中)の考えが発表された。合宿の栞には、走る為の心の在り方にについて多くのページが割かれていた。精神的にも身体的にも未成熟な中学生にとって、この善意に溢れた指導者達との出会いは競技生活での大きなエポックになることだろう。指導とは心を育てること、心で走る選手育成が確実に結果となって実を結び始めた。
(伊)