大後栄治監督プロフィール
1983年・日本体育大学入学
1987年・大学4年時にマネージャーとしてチームを率い
箱根駅伝往路優勝、総合2位に導く
1989年・日本体育大学大学院卒・同年神奈川大学コーチ就任
1991年・チーム18年振りの箱根駅伝出場を果たす
1997年・翌1998年・東京箱根間往復大学駅伝二連覇
コーチングへの道
日体大でマネージャーになり、実質、監督みたいな事をやっていた。箱根駅伝も学生主導で計画を立て、メンバーを決めた。練習メニューは先輩達の残してくれた資料や練習日誌を手がかりにするしかなかったが、それなりに選手は強くなった。「自分なりに良いチームが出来たなと思ったが、結局負けてしまって・・・」監督が居ない事や練習内容への不安は拭えず、これをやれば絶対に強くなる、といったガイドラインが欲しくて練習の裏付けを追い求める様になる。これがデータ管理の導入の動機であった。 スポーツ栄養でホットな話題を集めているものに、アミノ酸とタンパク質があります。選手は効率よく記録を伸ばし、その記録を維持するために、常に新しい物を求めています。しかし、宣伝に惹かれて、安易に手を出してしまうのは大変危険です。科学的な理論の裏付けや、多くの動物実験による再現性を十分に理解する必要があります。
三大栄養素は、タンパク質、炭水化物、脂肪です。この中で、炭水化物や脂肪はエネルギー源で、余剰分は熱として放出、または皮下脂肪として身体に蓄積されます。これに対して、タンパク質は身体そのものを構成するもので、身体の中に蓄積できません。常に壊され、新生され、残骸は尿素として排泄されます。不足分は食べ物から供給されなければならないのです。タンパク質が重要なのはこの点です。
モチベーションを高めたい
「六年間の大学時代に学んだ事は、やるのは選手だと言う事です」確固たる練習の意味を監督が示さないと選手に負担がかかる。そこで、きつい、楽だ、などという曖昧な感覚を判りやすく数量化して示してやりたい、という考えから、乳酸値測定の発想が生まれた。「長距離は一番摂生が必要な競技です。練習は目標を持ってやらなかったら力にならないんです」選手がどれだけ理解して、自主的に取り組めるか。「スポーツに限らず、なんでもそうなんだけど前向きに取り組む姿勢でやっていれば、プラスになります」
箱根は社会のシミュレーション
「箱根が総てではないという批判も多いけど、考え方によってはあの駅伝によって凄いものが学べると思ってます」自身の経験からも、学生が目指すに値すると確信している。「自分の立場がチームにどのように活かされていくかというのは明らかに企業の考え方です」現在、マネージメントは学生に任せている。徹底的な話し合いを持ち、方向性を打ち出し、決めた事は守る。四年生になると何をしなければならないのか、駅伝で勝つには何が必要かは判っているので、口出しはしない。社会のシミュレーションでもある。
データと感性とのバランス
「データだけを信頼はしないですよ。それに色々自分なりのものを加味しながら、傾向とか妥当性をみているだけなんです」データはあくまで指標に過ぎないのだ。以前に信用し過ぎて失敗した経験がある。「人間を扱う時、データと感性のバランスをとっていかないと絶対失敗しますよ」毎日グランドに立って、選手を見る感性を研ぎ澄ます事が肝心なのだ。データはあくまで、迷った時の判断基準であり、補助的なものだと考えている。 「指導者って崩したり、構築したりしていく作業です。成功してきたものを崩すのは自分を否定する事になりますから、これは凄く大変な作業です」常に原点に立ち返るリセットボタンを持つ必要がある。白紙に戻すのは勇気のいる事だ。
人間の機能は比例的には上がらない
「考えてみれば二連覇の時は、大した練習してなかったんですよ。腹八分位で二、三年積み重ねてきたのがパッと弾けたのかなって思うんです」人間の機能は比例的でなく、ある時急に上がる。そこが面白くもあり難しくもある。「だから一年じゃ片付けられない、二、三年のサイクルでどうかという事ですね」運とタイミングもないと勝てない。「昨年は僕にとっては一番苦しかったですね」
チーム内でのグループ化
「キャパシティーのある選手が少しずつ入ってきてますし、同時に力の無い選手も入ってきますから、そのレンジが広くなってきます」そこで生まれたファーストとファームというシステム。「上を伸ばして、下も押し上げる。案は出したんですけど、最終的には学生達が考えたものです」故障など様々な理由から走れないファーム選手は、週二回の集合と夜のミーティングのみ。ジョグ、治療、プールなどメニューを申告し、監督から様々な指示を受ける。「やれる範囲で三週間分の練習計画を出させています。最終目標を置いて、一つずつクリアしながらファーストへの準備をするんです」治療やリハビリに専念しながらトップ昇格を目指す。春先には二〇人程だったファーム選手も、現在は五、六名に減っている。
合宿所完成
・来春の合宿所完成に伴い、選手の日常生活の総てを検証している。レベルが上がるにつれて、 貧血や内臓疾患など今迄見られなかった故障や病気が出て来るようになった。「食事やアフターケアーも並行して追い付かなければいけないなと思って合宿所という考えが出てきたんです。これもデータのお陰ですね」食事に関しても選手の傾向と対策をしっかり把握し、疾病予防の環境整備をするつもりだ。その上で、駅伝はもちろん、個人の能力に合わせたハイレベルな大会出場も睨んでいる。
少年時代から常にリーダーシップをとってきたという大後監督。中学の恩師の影響で教員を目指していたが、箱根駅伝出場がターニングポイントとなった。再びチャレンジする為に、大学の指導者の道を選んだ。人から言われるのは好きではない。納得のいかない事には梃子でも動かない。そんな気風がチームにも反映している。意外にも人間味に溢れるデータの神奈川。今、そのパラドックスが面白い。