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No.12


駒沢大学陸上競技部
出雲全日本選抜駅伝・全日本大学駅伝・二冠達成・グランドスラムを狙う、
箱根駅伝を1ケ月後に控えた11月26日、駒沢大学陸上競技部を訪ねた。

駒沢大学は世田谷の多摩川と砧公園に程近い閑静な住宅地にあります。学生時代をこの地で過ごした私には、風の様に走り去って行く駒大のランナーを、無理と分かっていながらも追い掛けた思い出もあり懐かしさが募ります。出会いにはその様な背景がありました。お会いする度に熱く語って下さる大八木コーチ、テキパキと仕事をこなす副主務中村君の爽やかさ、魅力多き人達の貴重なルポになりました。

大八木弘明コーチインタビュー
プロフィール
大八木コーチには一匹狼的な雰囲気が漂っている。そのひととなりを想像しながらインタビューに向かった。陸上との出会いからお話しいただいたが、そこには夢を諦める事なく追い続けた青年像があった。中学二年の時、校内マラソンで優勝。飛躍的な成長を遂げ、中三の全国大会で五位。インターハイへの夢を抱いていた高校時代は故障と貧血に苦しみ良い思い出が無い。一度は実業団に入ったが、箱根駅伝にチャレンジしようと決意する。川崎市役所に勤務しながら二部在籍で箱根に出場できる駒沢大学を選ぶ。大学二年、「また貧血でした。それを機に徹底的に検査をしたり、あらゆる勉強をしました」指導的手腕を発揮し始めたのもこの頃。「三年の時、チームを予選会から脱出させようと意識改革を始め、スケジュールを立てて指導しました」そして箱根総合四位に。卒業後は、実業団(ヤクルト)に六年、その後母校のコーチに就任。

「走ると云う事はどういう事か、強くなる為にはどうするべきか、という意識改革。環境の整備や栄養の管理などから始めました」具体的には「朝練習や寮規則を徹底させ、食事をしっかりとる事、高い意識で練習に臨む事、陸上は生活の一部であるという考え方を選手に植え付けました」厳しい管理に見えるが、社会においてルールやモラルがある様に、チームにおいても当たり前の事。個人の生活がしっかりしている駒大の選手には活気がある。

感覚の駒沢、データの神奈川と巷では言われるが、コーチの経験に基づく数々のデータは確実に指導に活かされている。競技者として早くから芽生えていた自立心、そして豊かな経験から培われた精神的強さが、指導の根底にある。「何事も基礎が大切です。挨拶で始まり挨拶で終わるという礼儀から指導しています。そして身体づくり。スピード練習よりもまずはじっくり走り込んでスタミナを付け、そこから各自の長所を活かしていくのが、私のやり方です」「年下を育てられる人間には、指導力があります。上だけを見ていたら下は着いてきません。無名の選手には、二年間待て、辛抱すれば必ず結果は出る、と言います。我慢した選手が勝てるんです。本人を勇気づけるのは結果ですから」誰もが速くなりたいと思っている。記録の差はあれ、実力が上がれば走る事が楽しくなり、更に上を目指す様になる。

「箱根だけが全てではありません。大学時代だけで終わる事のない、先を見据えた指導をしています。その過程で箱根駅伝は全員で勝ちに行く、ただそれだけです」箱根に勝つ事が最終目的ではない。大学時代が良い思い出だけでなく、生きていく為の貴重な経験にならなければ意味がない。四年生のある選手が故障をした。メンバーに入れないと察知し、チームの為にマネージャーになりたいと言って来た。「気持ちは良く分るが、しっかり汗を掻きながら歩く姿を見せろ、最後まで選手として諦めない態度を示せ、その方がチームの為になるし、後輩達に素晴らしいものが残せる」と励ました。どんな選手も最後まで見捨てない。卒業したら誰もが社会に出て独りで生きて行かなければならない。その土台作りに頑固にこだわる。人生の先輩としての情熱は、確実に学生達に伝わっているようだ。

学生諸君にインタビュー
練習後、寮にお邪魔した。学生寮にしては整理整頓されている(?)部屋で車座になって学生諸君にインタビューした。集まってくれたのは、河合芳隆君、北田初男君(四年)大西雄三君、前田康弘君(三年)田中高顕君、中村孝道君(マネージャー)の皆さん。

大八木コーチが来られて変わった事は何ですか。
「食生活です。それまで朝晩の食事の仕度は一年生の仕事でした。調理済みか、火を通すだけの物が多く、味噌汁もインスタントでした。品数も少なく、栄養の偏りはあったと思います。それがコーチの奥さんに作っていただける様になりました(河合)」

三年生はそれを聞いてどうですか。
「自分達には出来なかったと思います。考えられません(前田) 」「高校の時も下宿で、作ってもらっていたので、自分では出来なかったと思います(大西)」それからどう変わった?「バランスの良い食事になった事はもちろん、一年生には時間の余裕が出来て、練習にしっかり打ち込める様になりました(河合)」「一番変わったのは意識です。以前は、集合せず遊びに行ってしまう先輩など沢山いて、後輩がそれを真似したので悪循環でした。入学当時は、あまりの意識の低さに、これが箱根に出ているチームなのかとがっかりしました。今はしっかりやるのが当たり前で、意識の持ち方が以前とは違います(北田)」「僕も大分変わったと思います。日曜は個人練習で、一年生の時はやっていませんでしたが、周りに影響されてやる様になりました(前田)」「入学した時に藤田さんと同じ部屋でした。先輩の姿を見て意識が高くなりました(大西)」

マネージャーの立場からはどうですか。
「コーチがいつもおっしゃっている事ですが、チームの系図は、監督、コーチ、マネージャー、選手という順になります。でも選手が走らないとどうにもなりませんから、選手が監督の上で一番だと思って行動しています(田中・中村)」

最も変化したのは自己管理に基づいた意識と環境。先輩から後輩へ受け継がれ、根付いていく。主力だけではなく、次代に繋げようと努力している選手、陰で支えるマネージャー、誰が欠けても成り立たない結束力、強さの源泉はこんな処にもあった。大学生活を謳歌し、ぜひ人生の成功者になってほしい。
(伊藤)