Seria Net
No.03


アトランタそしてシドニー

最高の舞台で実力を・・・
聖火は消えたが、その興奮は今だ冷めやらない。トップアスリートたちのパフォーマンスは、深い感動となり心に残っている。勝負は時の運、神のみぞ知る世界だが、期待通りに勝利を収めた選手の集中力のメカニズムは解明されていない。だからドラマが起きる。

日本の水泳陣は、史上最強とまで言われていたが、結果が出せなかった。オリンピック前、力を実証し確認したが故に、自信過剰と、ピークを過ぎてしまった肉体とに溝が生じた。ゴール後の彼等の視線が全てを物語っている。

有森選手のオリンピックは、北海道マラソンで勝つことからはじまっていた。銅メダルを獲得するまでの約一年間、心と体のバランスは計算しつくされていた。アメリカを中心に練習することにより、環境に適応、リラックスもできたようだ。栄養に対しても意識の高さがうかがわれる。そしてスタッフが素晴しい。コンディショニングをとるために個人の意見を最大限に尊重するが、しっかりコントロールはしている。それがごく自然に行われている。他の選手の結果をみてもその成果には納得がいく。  最高の舞台で実力を十分に発揮する、そんなアスリートを誕生させるには膨大な資金と人材が必要となってくる。今のJOCでは望むべくもない事だが、住専問題に比べれば、簡単に解決出来る前向きな事柄に思えるのだ。

オリンピックは文化
人と科学が融合した開会式。トーチを手にしたモハメド・アリの顔が今だに脳裏に焼き付いている。人種、宗教、経済、戦争を超えた歴史を、時にアスリートがつくることを思い知らされる。スポーツ文化の底知れぬ深さに驚嘆した。
数多くの諸国がこの祭典に国を挙げて挑んでくる。小国の選手は国費留学で研鑽を積み、先進国は科学技術の最先端を競いあう。力と技を、心とからだを賭けてぶつかりあう選手の姿には、たくさんの人の願いが満ちている。

日本ではメダルの色や数ばかりに注目し、普段はまったく関心のない競技にまでメダルの期待がかかる。マスコミに扇動され、本質を見抜く力が欠如している。オリンピックはスポーツの祭典だ。最高のパフォーマンスのために何が出来るのか。選手はもちろん見る側にも責任がある。
 スポーツは文化だとオリンピックは教えてくれた。ナショナリズムや民族の壁を超えるだけの力があることも。国際的なアスリートを育むために今、私たちに求められているのはその文化を理解する広い教養かもしれない。
(山根)

勝利の女神も泣いている
勝てない最大の原因
◆オリンピックで驚くのは選手の身体の素晴しさだ。人種や種目によって体型も違うが、とにかく鍛えられて無駄がない。この肉体を維持管理し、ピークに持ってくるのは至難の業であろう。絶好調と故障は紙一重のところにあるからだ。三六歳のカール・ルイスは「グリルド・シャーク」つまり脂肪の少ない鮫の白身の焼き魚をタンパク源とする独自の食事を考え出した。

◆三七歳のリンフォード・クリスティーの主食は大量の果物だという。衰えていく肉体と対峙し、いかにしてトップの地位を保つか、超一流選手はトレーニングだけでなく食事管理にも一流の考えを持っている。そして日本選手は・・・水晶のネックレスである。そんなものを身につけた金メダリストがどの国にいただろう。ステロイドでもスッポンの生き血でも水晶玉でもない、自ら鍛えあげた肉体と精神にこそ勝利の女神は微笑むのだ。

◆はっきり言って、日本選手が勝てない最大の原因は、投資額の少なさだろう。選手はコーチをはじめトレーナーや栄養士など多くのスタッフに支えられているからトレーニングに没頭できる。十分な報酬が支払われて初めて選手は国代表の自覚を持って勝利をめざすことが可能になるのではないか。選手養成に対する意識のレベルはまだまだ低く、世界を目指す選手は優秀なスタッフを求めて海外へ留学するが、個人負担は重い。国内では経済的にも難しく、企業の宣伝媒体としてのお抱え選手がほとんどで、投資の枠もその範囲を越えない。それでもメダル、メダルと騒ぎ立てる。マスコミも拍車をかけ、選手は練習どころではない。水晶に頼る気持ちもわからなくもない。

◆陸上で金メダルをとると三百万円前後の報奨金が支払われるらしい。4年間の日割りにすると一日約二千円。この額で何のメンテナンスが施せるのか。選手に夢を託すのなら、それだけの投資をするべきだ。経済大国日本だが、今のままでは真のアスリートもアーチストも生まれない。心は貧しいままである。オリンピックをとおして心の豊かさが求められる日本の姿を見たようだ。

真のアスリート
メアリ・デッカー。八三年のヘルシンキ世界選手権で女子1500 、3000 2種目制覇を果たし「天才」の名をほしいままにした。八四年ロサンゼルス五輪3000 で優勝候補に挙げられていたが、悲劇は起きた。ライバル、ゾーラ・バッド(南アフリカ)と接触し転倒、腰を打ち途中棄権してしまった。それ以来世界の檜舞台に現われることはなかったが、今年の全米選手権5000 2位。メアリ・スレーニーとなって 歳で五輪の舞台に返り咲いた。これまでに十五回も手術を受けているという。復活への原動力は何なのか。彼女は言う「五輪がすべてではない。たとえ出場できなくても、私のシーズンが終わるわけではない。なぜなら私は、走るのが好きなんです。」天才とうたわれたヒロインは、少女のころの心で走り続けている。ここに、競技を卓越した、真のアスリートを見た。