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No.10


田島博士の特別栄養講座

医食同源
健康を維持する最善の方法は疾病を予防する事です

機能性食品という言葉を聞いた事があるでしょうか。カルシウムの吸収を助けたり脂肪の燃焼を促進したり、何らかの生理活性を持った栄養素を含む食品の事です。これらを健康維持に役立てようと、新たな物質を検索したり、既存の物を人為的に改変する研究に注目が集まっています。機能性食品は、そもそも食文化に根差した物でした。日常的に摂取している物から、たまたま特定の成分を検索する様になったのです。本来、食品を機能的・非機能的と分類するのは間違いで、栄養素自体は既に機能的です。脂質代謝を改善する魚油(主にDHA)は、ヨーロッパ諸国とエスキモーの食生活の比較からその重要性が認められ、日本では漁村を中心とした疫学調査によって魚食の大切さが再確認され、特定の栄養素として単離されて来たのです。機能性食品として扱われる以前から、食文化の中でその重要性を認識されていたと言えます。根拠のない伝承を鵜呑みにするのは論外ですが、それが科学的に証明される場合も多いのです。先人達は医食同源、すなわち食べる事で病気を防ぎ、健康を保つという事を解っていたのですから。数十年前まで栄養学はその欠乏が研究対象でしたが、今や不足の栄養学から過剰の栄養学に方向転換しています。動物は不足に耐える能力には優れていても、過剰に対する抵抗性は弱いと考えられます。食べ過ぎは百害あって一利なしです。機械と同様に人間も、壊れてから修繕するのは可能ですが、壊れる前の予防に関しては非常に不得手です。健康を維持する最善の方法は、疾病を予防する事です。病気の兆候は本人にしか解りませんから自己防衛する事が第一です。機能性食品を愛用せずとも、日常の食生活を見直す事から始めましょう。

アミノ酸・ペプチドの吸収の違い
栄養素が吸収されるのは主に小腸

タンパク質は数千から数万個のアミノ酸が結合したポリペプチドから成り立っています。ペプチドの方がアミノ酸よりも吸収効率が良い事が解って以来、スポーツ栄養の分野にも取り入れられる事が多くなりました。カロリーメイトの様にタンパク質の半消化産物として摂取される場合がほとんどです。アミノ酸とペプチドの吸収の差がどこに起因するのかを考えてみましょう。栄養素が吸収されるのは主に小腸です。細胞は脂質二重膜で仕切られ、脂溶性の物質以外は自由に細胞内に入る事が出来ません。その為、細胞膜上にはトランスポーター(輸送体)というタンパク質が存在し、アミノ酸やペプチドに限らず、グルコースやミネラル類を細胞内に積極的に取り込みます。これを能動輸送と言います。その時にアミノ酸とペプチドではそれぞれの輸送方法が異なります。輸送体は厳密に遺伝子の支配を受けていて、状況に応じて基質に対しての取り込み活性が変化します。例えば絶食やタンパク質飢餓の状態では、アミノ酸輸送担体は減少し、それに伴って吸収能力も低下します。しかし、ペプチド輸送系はこれらの外的環境の変化を受けにくいので、吸収能力を一定のレベルに保つ事が明らかになっています。前号でも書きましたが、小腸上皮では周囲の環境が低pHに保たれる為、ペプチド吸収にも有利に働きます。ペプチド輸送担体が細胞内に取り込めるのはトリペプチド(アミノ酸三個の結合体)までです。腸内に入ったペプチドは、その大半が腸上皮細胞膜上にあるアミノペプチダーゼにより加水分解されますので、約半分はアミノ酸として取り込まれていると言えます。共同で体内に栄養素を取り込んでいる訳です。従って、体をいい状態に保つ事がこれらの吸収効率アップにつながると考えられます。