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No.09


田島博士の特別栄養講座

善玉菌と悪玉菌
善玉菌が悪玉菌を追い払って、お腹の中を綺麗にしているコマーシャルを見かけます。ビフィズス菌や乳酸菌などの有益菌を積極的に摂取して、お腹の中の環境を整えようという狙いです。けれども、単純に腸内細菌を善悪に二分する事はできません。もっと大切な事があるのです。疫学調査や癌との因果関係を探っていくと、宿主に有益な細菌と、悪影響を及ぼす細菌があるのは事実です。腸内に常在している細菌は免疫寛容を受け、そこに住む事が許されたものです。大切なのは細菌間の理想的なバランスを保つ事で、有益な菌だけを増やせばいいという訳ではありません。

生菌製剤や乳酸菌飲料を試す事は有効だと思いますが、外から摂取した菌は腸内に住みつく事が出来ませんので、根本的な解決にはならないのです。また、嫌気性細菌の生態系は、まだまだ未解明な部分が多いのが現状です。腸内フローラ(腸内細菌の集団)の場合も、実際には未だに培養できない細菌が、腸内で最も多く存在している可能性があります。菌の変動機構などの解析により、現在有益と考えられている菌よりも重要なものが見出される可能性も秘めています。

どの様な食事をすれば、理想の腸内フローラが得られるのでしょうか?大切なのは、細菌の多様性を維持して、環境の変化に強いフローラを持つ事と、そのバランスを維持する事です。偏食は、偏った腸内フローラを作ってしまいます。それを是正する為に、ビフィズス菌や乳酸菌を摂取しても効果は望めません。正しい食事をして、自ら育てていくしかないのです。

ミネラルの吸収
カルシウムを筆頭に各種ミネラルの不足が提唱され、補助食品がスーパーやコンビニエンスストアなどでも見られる様になりました。もともとミネラルの要求量を決定するのは簡単ではありません。特に微量元素と呼ばれるものには、不足しても過剰でもいけない二面性があります。より要求量が高い鉄やカルシウムなどのマクロミネラルは不足しやすく、貧血や骨粗鬆症などの疾病を招きます。それらの摂取と直接結びつくのは日常の食材ですが、体内でどの程度吸収されるかは、食習慣によるところが大きいのです。欧米は肉食主体で乳製品を多く摂取するため、カルシウムの摂取量などは日本よりはるかに多いのですが、その吸収効率は、日本人の方が良いのです。穀類(炭水化物)主体の食事の方が腸内のpHを低い状態に保つからです。小腸に到達したミネラルは、環境次第で不溶にも可溶にもなります。

ミネラルは低いpHで可溶化し、体内に吸収されます。腸絨毛は未撹拌水層という境界を作り出し、常にpHを低く栄養素を吸収しやすい状態に保っています。そこに到達する前に不溶化して、下部消化管に流れてしまっては吸収されません。セリア Caに入っている CPPは、腸内でカルシウムと結合し、不溶化を防ぎ、吸収されやすい状態を保つ生理活性物質です。問題は摂取量ではなく、いかに効率よく体内に吸収するかです。栄養素の吸収にもサーカディアンリズム(体内周期)がありますし、食生活習慣でも変わってきます。大量に摂取する事よりも、タイミング良く、よく考えて食べる事が大切なのです。