Seria Net
No.08


田島博士の特別栄養講座

抗生物質とMRSA(多様性その2)
多様性の大切さは土壌細菌を例にあげて説明しました。今回はその続きで、ヒトに係わる話をしましょう。「MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ状球菌)の院内感染による死亡」という記事を新聞で目にします。あらゆる抗生物質に耐え得るこの細菌は、ヒトの免疫力しか頼る事が出来ない最も危険なものかもしれません。そもそも、MRSAとは何なのでしょうか?ペニシリンに始まる抗生物質の発見は、ヒトの感染症に対して劇的な効果を示して来ました。不治の病であった結核も、現代では死に至ることはほとんどありません。抗生物質は健康的な生活を保障する、至福の薬だったのです。しかし、これを多用した結果、薬に打ち勝つ(薬剤耐性を持った)細菌が出現し、抗生物質とのイタチごっこが始まりました。その結果、あらゆる薬剤の耐性を獲得したMRSAが誕生してしまったのです。MRSAは至上最強と呼ばれるバンコマイシンの耐性さえも獲得したと報告されています。人間の英知を絞っても殺すことが出来ない細菌を、人間は自ら育て上げてしまったのです。MRSAはどれほど恐く・強い細菌なのでしょうか? 顕微鏡で見ると非常に不格好で、しかも増殖能力はそれほど高くありません。試験管の中でSA(黄色ブドウ状球菌)と共培養してみると、MRSAはSAとの生存競争に負けてしまう弱々しい細菌なのです。しかし、抗生物質でSAを叩くと、どんなに弱いMRSAでも生存競争に打ち勝ちます。こうした状況は実際に身体の中でも同じです。MRSAが病院でしか感染しないのは、細菌の多様性が抗生物質により失われているからなのです。腸内細菌だけでなく、人間の体表には様々な細菌が生息しています。外で泥だらけになって遊んだり、様々な物を食べることで、ヒトは体表や体内の細菌の多様性を獲得してきました。常在細菌が体を被うことで、外来の細菌を排除し、健康を維持できるのです。免疫の力で多少毒性を持った細菌が存在しても害がないようにしてきたのです。しかし、抗生物質を多用すると、その多様性は失われ、本来生命力の弱いMRSAなどの繁殖を許してしまいます。その結果、感染症をひき起こすのです。MRSAしか生息できないそんな身体は、農薬を散布され虫さえも食わない野菜のようで、生命として悲しい事だと思いませんか。

脂肪で脂肪を減らす?
体重を減らしたい。脂肪を落としたい。太ることが比較的楽な反面、ひとたび増えてしまった体重を減らすことは、なかなか大変です。楽して痩せたい、と誰もが思っていることでしょう。それは永遠に夢のような話です。しかし、それを補助するような栄養素はないことはありません。「毒をもって毒を制す」まさしく「脂肪で脂肪を減らす」ことが可能かどうかを検討してみます。

結論からいきましよう。脂肪燃焼を促し、代謝を活性化させる脂肪酸があるのは事実です。例えば、セリアサプライズに含まれているDHA(ドコサヘキサエン酸)もその1つです。DHAの前駆体であるEPA(エイコサペンタエン酸)は実際に高脂血症の治療剤として使われています。このように鎖長が長く、かつ不飽和度が高い脂肪酸は、おおむね脂質代謝に何らかの効果を発揮します。最近脚光を浴びている月見草油にはγーリノレン酸(GLA)という高度不飽和脂肪酸が含まれています。ラットに摂取させると、明らかに体脂肪の低下が見られ、細胞中の脂質代謝が活発化していることが分かります。他にも、セサミンやカプサイシンなど、脂肪燃焼に効果がある物質を含む食品は少なくありません。

脂肪の質を考えて摂取すれば、脂肪が脂肪を燃やす助けになるのです。しかし、DHAもGLAも脂質としてのカロリーを持っていますから、そればかり大量に食べても効果はありません。しかも、これらの脂肪酸を豊富に含む食品は、マグロの眼窩脂肪など特殊な物を除いて、非常に少ないのです。月見草油中のGLAも、実際に効果が現れるほど含まれていません。遺伝子工学などの発達で大量に生産出来るようなシステムが出来上がってきましたが、市販ではまだまだ高価です。今のところは真面目に努力して「好き嫌いせず、質を考えて、まんべんなく食べる」ことが、一番の近道かもしれませんね。