Seria Net
No.05


ヤマタケが斬る

大人こそ変わらなきゃ
私の学生時代、けがや故障といったら単純骨折か捻挫、それに打撲ぐらいでした。辛さよりもギブスは武雄伝の勲章のように誇らしかったのを思い出します。それでも次第に練習からドロップアウトすることの罪意識に苦しみ、早く治りたいと心底思いました。 延々と続く練習の最大の敵は空腹でした。倒れた奴もあんパンひとつですぐに元気になることを誰もが知っていました。意識が朦朧としても、仲間との連帯感が身体中のエネルギーを呼び覚ましてくれました。今より厳しく、無謀なしごきだったにもかかわらず、元気で毎日楽しかったような気がします。
今、生徒は疲れています。腰痛、疲労性障害が後を断たず、治療院は中高生で溢れています。部活動や塾で忙しいのも事実ですが、原因はそれだけではないようです。一番気になるのは安易な食事や運動不足です。キャッチボールが出来ないほど体力が低下し、お菓子で育った子供に問題が多くみられます。また、精神的ストレスが原因になることもあります。親、友人、先生との信頼関係が満たされず、救いを求めるあまり無意識のうちにけがや病気になるケースもあるのです。
忙しいお父さんお母さん、思い出してみてください。子供が小さい頃、出張や仕事で忙しいときに限って子供が発熱したりしませんでしたか。病気になれば心配してもらえると子供心に思いつめてしまうのです。トレーニング中に起こる過呼吸症候群、嘔吐などもそれにあたります。頑張っている生徒ほど見てもらいたい、聞いて欲しいことが沢山あるのです。
苦しい時に苦しいと言えない世代を作ってしまったのは私たち大人の責任です。 子供たちの声無き声を聞き取れる力が求められています。子供たちの疲れを癒し、元気を取り戻すために大人が変わらなきゃ。

実業団に思う
有名選手のプロ契約に日本の陸上界が大きく揺れ動いている。何年も前からオリンピックにプロ選手が出場出来る競技もあるのに今更困惑している陸連の対応の鈍さには閉口せざるを得ない。実際、実業団の中にもプロあるいはセミプロといえる選手が増えている。タレントを育てる環境作りを企業にばかり委ねている時代は終焉を迎えているようだ。
現状は、登録選手数は現在4,795名、約800 チーム。このうち2人以上の選手が登録しているチームは 360という数字から見ても、ほとんどが個人登録であることがわかる。長距離選手は男子600 人、女子270 人で、意外と少数派である。競技レベルもまちまちで、実業団= トップアスリートとは必ずしも言えない。その資格は、企業からの給料支給ということだけで競技レベルに関する規定は何もない。あくまで職場サークルに主眼を置いたもので、ワールドクラス選手の育成には、構造的に無理がある。
企業が陸上選手を強化、あるいはサポートしようと思っても、選手との間に雇用関係が成立しない限り実現出来ないことになる。選手として有能かつ社員として嘱望される人材でなければチャンスが得られないのだ。これでは企業にも選手にも相当の負担が強いられる。
企業にとっては利潤の追及が第一。成績次第で存続が危ぶまれるようでは選手がトレーニングに集中出来る筈がない。クラブチームや個人では活躍の場が限られ、企業としては投資する価値が見いだせない。競技選手や組織がプロ化を図ることは決して容易ではない。
学連や実業団の枠を越えた根本的な組織改編を行い、新しい大会運営、チーム作り、選手強化の大ナタを振う英断を陸連に求めたい。この春、廃部になる実業団チームがある。自分達の責任問題を懸念する前に選手たちの胸の内をもっと感じて欲しい。