日本とアメリカの違い
ピットに立つ彼女ほど野性的な目をしている選手は少ない。まさに大空に飛び立とうとしている瞬間は魅力的だ。「負けることが大嫌い。それってストレスを感じますよね。」という言葉に裏付けされるように、勝つための集中力は、他を寄せつけない感がある。今まで出会った日本選手の中では、意識も素質も別格といった印象だ。留学や日本とアメリカの違いについて、興味深い話しが聞くことが出来た。
◇なぜ、埼玉大学に進学をしましたか。
「とにかく、先輩の前でお弁当も食べられないような封建的な上下関係が大嫌いなので、自由に練習をできそうな大学を選びました。また、将来競技を引退しても、一流の社会人になりたかったからです。」競技力が高いだけの選手と違い、自己主張がはっきりとしてその奥に教養の高さを感じた。ジョージメイソン大学に留学したきっかけは何ですか。「ジュニア遠征で6m32を飛んでスカウトされました。当時、自己記録が更新できなかったので、環境を変え、違ったタイプの練習にチャレンジしたいと思っていました。」後日、コーチに「6m30を越えなかったら声も掛けなかった。」と聞かされたそうだ。
◇どうでしたか学生生活は。
「授業もテストもすべて一般学生と変わりません。アメリカ学生協会に、成績が基準以下になるとどの競技者でも退部させる規定があるので大変でした。週に何度か勉強するように自習室に拘束される日もあるほどでした。成績が悪いとコーチに呼ばれ厳重注意をされます。厳しかったですが日本も同じようになればよいと思います。」
◇練習は。
「量が多く戸惑いました。時間は三時半から六時まで。本練習のあとウエイトがあり、月曜下半身、火曜上半身、水曜ジャンプ系、木曜下半身、金曜上半身、土日曜休みといった予定でした。皆トラックから這ってウエイトルームにいっていました。」
◇試合期はどうでしたか。
「室内が一月から三月の第一週まで、屋外が三月後半から六月の第一週まででした。シーズン中は、コーチの命令で毎週試合に出場させられました。調整なども一切なかったです。ですから、シーズンの中盤に絶好調になり、あとは全然飛べなくなります。どうしても納得がいかないときは、コーチに自分の考えを主張し変更してもらいました。」
◇日本の学生との違いは。
「遠征慣れしているところです。時間があればどこでも勉強をしていますが、試合になれば気持ちがしっかり切り替わるところです。それと、日本の選手のように最初からT調子が悪い″T今日はダメ″とは絶対に言いません。悪くてもTベストを尽くせば大丈夫″といつも前向きです。」
◇栄養についてはどうでしたか。
「調子に応じてコーチがいろいろなものを渡してくれましたが、中味の解らないものはこわいので食べないようにしていました。ビタミンEはよくとっていました。特に試合前になるといつもの二倍は食べていました。ドーピング検査も四回経験しました。アメリカの中でもレベルが高い選手が集まっていたので、よく行われていました。」日本記録を樹立したときはどんな状況でしたか。「幻の6m70ジャンプなど経験していたので、いつでも狙っていました。そのときは、風向きが悪く棄権する選手が多かったです。どうしても全米選手権A標準記録の6m50を突破したかったので六本目まで粘りました。最後に風も味方してくれ記録が出ました。」
◇留学も、すべてが順調と云うわけではない。インタビューをお願いしたとき「アメリカで陸上を続けようと思っている人の夢を壊すかもしれませんが、それでもいいですか。」海外での学生生活と競技を両立するのは並大抵のことではなかったようだ。最初の年は、環境になじめず、家族の愛が支えとなっていたそうだ。
◇最後に日本の陸上界にひとこと。「もっと柔軟な体制をとってほしい。ユニバーシアード選考会で、アメリカの学生であることと、日本選手権は一般のチャンスで、地区インカレに出場していないという理由から選ばれませんでした。」素質と実績を備えた選手が活躍の場を制限される、陸上界の悲しい現実だ。かって陰に葬られた数多くの選手を思うとき、日本とアメリカの違いは選手の意識だけではないようだ。ここにも又、封建的な縦社会が顔を覗かせる。このような体制を私たちは変革して行きたいと考えている。高松さんには、是非、シドニーオリンピックで夢を実現して欲しい。貴女の強い個性、応援します。
伊藤
全中走幅跳二連覇中学記録6m14、インターハイ走幅跳
三連覇高校記録6m38
日本室内記録6m34、日本記録6m61
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